第3回講義レポート (一社)京都オーガニックアクション代表理事 鈴木健太郎氏 「持続可能な農業を地域で支える〜オーガニックの課題解決に向けた取り組みとは」
2022.10.17以下、事務局がまとめた伊那谷有機農業塾第3回のご講演(一般社団法人京都オーガニックアクション代表理事 鈴木健太郎氏)の要旨です。
有機農産物の地産地消が当たり前になる社会を
今日は京都府南丹市から来ました。南丹市は京都市と隣接し都市部へのアクセスに比較的恵まれていますが、まだ茅葺屋根の古民家が多く残るところです。市の面積は約600㎢と伊那市と同じくらいですが、人口は約3万人で伊那市の半分。人口密度も半分です。
そのような南丹市で、有機農産物を扱う移動八百屋「369商店」の店主と、地域の有機農産物を地域内で流通させるプロジェクトに取り組む「一般社団法人京都オーガニックアクション」の代表理事の活動を行っています。どちらの事業も“Local & Organic”をスローガンに掲げ、有機農産物の地産地消が当たり前になる社会を目指して取り組んでいます。
オーガニック難民問題の解消へ、移動八百屋を運営
それぞれの事業について、お話していきたいと思います。まず、有機農産物を扱う移動八百屋「369商店」ですが、そもそもの創業のきっかけは“オーガニック難民”の問題を解決したいという想いからでした。
実は私は移住者で、今から12年前の2010年に京都市内から夫婦で南丹市へ移り住みました。私は仏像彫刻、妻は絵描きとして半農半Xのような暮らしをするなかで、私たちと同じように都市部から移住して有機農業に取り組んでいる多くの農家と知り合いになりました。彼らが作っている農作物を購入したいと思ったのですが、地元の八百屋やスーパー、直売所には卸しておらず、京都市で販売しているという事実を知りました。地域の有機農産物が地域で購入できないという、いわば「オーガニック難民」と呼べる状況が生じていたんですね。これは構造的に何かがおかしいのではないかと思い、解決したいと考えて始めたのが、移動八百屋「369商店」です。
具体的な事業のひとつは、地域の有機農家から仕入れた農産物をセットにして個人に宅配するもので、亀岡市、南丹市、京都市で約60軒に販売しています。また、飲食店や小売店への卸売りも約10軒行っているのと、亀岡市のふるさと納税返礼品として仕入れた有機農産物を販売する事業も月あたり約250件行っています。
農家と小売事業者でプロジェクトを立ち上げ
もうひとつの事業である「一般社団法人京都オーガニックアクション」の取り組みについてお話します。
きっかけは2017年に開催した「百姓一喜」というイベントです。地域の有機農産物を地域で購入できない要因には、有機農産物を販売する農家側の課題と、八百屋やスーパー、直売所といった小売事業者側の課題があるのではないかと考えました。これらの課題を解決するためには、まずは一度、地域の有機農家と小売事業者に集まってもらい、酒杯も酌み交わしながら、ざっくばらんに意見交換をしてもらうのが良いのではないかと考えて開催したのが「百姓一喜」です。
それまでこうした会がなかったこともあり、70人余りも集まり、朝まで大いに盛り上がりました。これをきっかけに、有機農家と小売事業者で連携し、地域の有機農産物を地域で販売・購入しやすくするために何かできないかと考えることになり、百姓一喜の参加メンバーで「京都オーガニックアクション(KOA)」を立ち上げました。
共同物流便で農家と小売事業者の手間を削減
京都オーガニックアクションの主な取り組みは「KOA共同物流便」の運営です。
「百姓一喜」で、有機農産物の地産地消を推進するうえでの農家と小売事業者それぞれの課題が浮き彫りになりました。農家側の課題は、販路開拓や送料の高騰といったものです。一方の小売事業者側の課題は市場で有機農産物が手に入りづらい、送料が高い、集荷が手間といったもので、KOA共同物流便はこうした双方の課題の解消を目指しています。
KOA共同物流便は、有機農産物の宅配事業を行う坂ノ途中(京都市)と、一般社団法人 次代の食と農をつくる会(東京都)が開発・運営を行っている「farmO(ファーモ)」という受発注オンラインプラットフォームを活用します。このシステムは、有機農家が農作物の種類や量、販売価格といった出荷情報をウェブフォーム上に書き込み、八百屋やスーパー、飲食店といった小売り事業者がその情報を見て農作物を注文できるというものです。
これだけでも従来にはない便利な仕組みですが、農家は配送や代金請求の手間があります。また、小売り事業者も様々な農家に発注を掛けて代金を請求しなければいけません。そこで、私たち京都オーガニックアクションが、KOA共同物流便で登録農家の有機農産物をまとめて集荷、登録小売り事業者への配送を農家に代わって行います。これにより、できる限り有機農家と小売事業者の手間を省き、地域で有機農産物を販売しやすい環境を整えたいと思っています。2022年5月現在、KOA共同物流便を利用している生産者は約30軒、小売事業者は15社です。
オーガニックの魅力を発信し、消費者への普及啓発も
京都オーガニックアクションでは、地域で当たり前に有機農産物を買うことができるようKOA共同物流便に取り組んできましたが、新たな課題も明らかになってきています。それは、そもそも消費者の意識が変わらなければ、オーガニックが大きく社会に広がっていかないということです。オーガニックに関心がない人や、興味はあるけれどよく分からないといった人もおり、京都オーガニックアクションではこうした人に対し、オーガニックの普及啓発に力を入れていこうと考えています。
既に、オーガニックに関するイベントやセミナー、ファーマーズマーケット、ポッドキャスト、ファームツアーなどの企画に着手していますが、今後もこれらの取り組みをより充実させ、オーガニックの魅力をより社会に強く発信していけたらと思います。
ちなみに、京都オーガニックアクションのメンバーには、ソーシャルビジネスを積極的に推進している京都信用金庫がおり、運営事務局と共同でイベントやセミナーなどの企画を行っています。また、イベントやセミナー会場として自社ビルも貸し出しており、メンバーにオーガニックに理解のある金融機関や企業がいることは、運営面でとてもありがたいことだと実感しています。
これまでも日本においてオーガニックを推進していこうという潮流はありましたが、あくまでも関心の高い一部の人に限られたものだったと思います。しかし、ここにきて、地球温暖化対策などの文脈のなかで、“社会全体として”オーガニックを推進していこうという流れが出てきているように感じています。こうした機運を追い風に、これまでのKOA共同物流便に加えて、今後は普及啓発の取り組みにも力を入れ、オーガニックのさらなる普及拡大に取り組んでいければと思います。